2024-02-09 15:25
此處からはつきり見えませんが、あの時計の文字盤には十二支の獸の繪が描かれています。長年この病院にいた一人の偏執狂があの時計の内部を製作したんです。手先の器用な男で、機械をいじつている姿は、精神病者とも見えなかつたのですが、非常な偏執狂で、奇妙なことに十二支の獸を守護神と崇め、部屋中に馬だの羊だのの繪をはりつけ――まあ、この部屋の有樣と同樣だつたのです。そう、この娘達の父親がその男で――時計職人の頃から、その守護神を大切にしたのも理由あつてのことでした。彼は、つまり、天空に祈りながら、永遠にとまらぬ時計を製作しようと目論んだのです。 (埴谷雄高 1971年「死靈」)
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