2024-04-26 13:05
「二十歳になった記念に、いい鞄を買ってあげる」
母はそう言って、私をお店に連れてきた。
私はブランドの鞄が欲しいと思った。母は予算を伝えてきたので、それを越さない程度のブランドのもの。幸い、好きなブランドの鞄がそれぐらいで買えたので、母にこれが欲しいと伝えた。
母はため息をついた。
「ブランドものなんかより、良い革を使ったものにしなさい」
それもそうかもな、と思って私は良い革とやらを使った鞄を買ってもらった。
一年ぐらいは使っただろうか。だが、もともとデザインが好きではなかったのであまり使わなくなってしまった。今も箪笥の肥やしになっている。
少し経って、妹が二十歳になった。
母は妹に同じ条件を提示した。果たして妹は何を買ってもらったか。ブランドものの、妹が望んだ鞄を望んだとおり買ってもらっていた。条件は満たしていたけど。
私は悲しいやら悔しいやら、負の感情に苛まれて嫌味のように母に聞いた。
「妹はブランドの鞄にしたんだね」
母はあっけらかんと答えた。
「だって、あの人は言うこと聞かないから」
これが私が息子にきょうだいを作らない理由である。我が家は選択一人っ子だ。
エッセイ