2024-12-04 03:23
加賀象嵌最後の職人
米沢弘安(明治20〜昭和47)
私が象嵌に興味を持つきっかけとなった人物です。昭和47年4月、文化庁によって「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」に選択されるも同年10月に死去。享年85。
加賀藩御細工所の系譜につながる最後の白銀師です。一般的に白銀師といえば刀のハバキ制作を生業とする職人を指しますが、加賀藩の白銀師は刀装具全般を制作する職人を指し、同藩の鐙師と並んで平象嵌を得意としました。
写真の品物は文鎮(または熨斗押え)で、恐らく昭和30〜40年代に制作されたものと推測します。本体制作は堀部泰資、象嵌は米沢弘安と銘があります。
寿の一字を赤銅、梅の花を銀、松葉を金、それぞれ平象嵌で表現してあります。本体は銅製で、厚い板金を何事もなく結んであります。
平象嵌の寿の文字は一見墨書きしたかのように滑らかで、当然の如く自然な風合いです。
品物に宿る祈りこそが伝統なのかも知れません。一つでも多く、良い仕事を遺そうとした弘安の晩年に思いを馳せました。