2025-02-02 13:21
(妻とは関係のない話)
数十年ぶりに節分の福豆を口に入れて噛んだ瞬間、古くて少し湿った畳の匂いが脳裏を過ぎった。
それは、幼い頃に幾度となく連れられて行った祖父の家。
近くの林を日が暮れるまで探検して回り、家に戻ったら父のファミコンを横に座って眺め、夕飯は必ず手巻き寿司で、井戸水を沸かした薄緑色のバスタブに浸かり、明かりを消した部屋で薄い布団に包まる、あのときの匂いだった。
今から40年以上前、人の良いふたりが不動産屋に「ここのあたりはそのうち常磐新線が通って便利になりますよ」と勧められて買った片田舎の土地だった。
「そのうち」には20年以上を要し、ようやく便利になった頃にはふたりともだいぶ老いてしまったわけだが、当時の幼かった私にとっては、鬱蒼とした木々に囲まれた祖父母の家は夢のような場所だった。
祖母は、近くもないスーパーへ歩いて行き、私の大好きないくらを必ず買ってくれていた。
祖父は毎晩、懐中電灯を持ってクワガタの集まる秘密の場所に案内してくれた。
ふたりとももうこの世にはおらず、あの家ももう何年も前に取り壊してしまった。