バカな女（2/6） ススキノにはいろんな客がいる だが、堂々と 「タダで飲ませて」 と言ってくる女はそうそういない 普通なら「お引き取り願う」と言うところだが その日はまだ客もいないし 何より俺の興味を引いた 「で、なんでタダなんだ？」 俺はボトルの屋根で乾かしていたグラスダスターを手に取り 彼女を視界に入れないようにしながら少し意地悪に聞いた 彼女はため息混じりに答えた 「彼氏が飲みに行くから、お金持って来てって言われて 持って行ったら、財布の中の金、全部取られてた……」 言葉の端々にやりきれない思いが滲んでいた 自暴自棄になり、気づいたら俺の店の前にいたらしい ――バカな女だ 俺は軽くグラスを拭きながら言った 「まあいいさ。開店したばかりで暇だし 客が来るまでの間、２、３杯なら奢ってやるよ」 彼女の表情に驚きと戸惑いの色がさす まさか本当に飲ませてもらえるとは 思わなかったのだろう