2025-03-18 09:28
② 20代後半と見受ける長い髪のその女性はなぜか右手にワインのボトルを持っていた。それをこちらに向かって掲げている。「乾杯」の合図だと思い僕もロゼのボトルを軽く傾けた。すると彼女はさらにボトルを高く掲げ、もう一方の手でそれを指差しながら同意を求める仕草をするのだ。
なるほど一緒に飲もうと言っているのだと理解した僕は親指で部屋の中を指すと、彼女は大きく頷き窓の真下まで来て「何号室?」と尋ねた。
ドアを開けると案外に背の高い、美しいのか幼いのかなんとも形容のし難い小顔の人が「こんばんは」と言ってボルドーセックのボトルを差し出した。首筋には桜の花びらが貼りついており、少し上気立っているのは酒のせいかも知れない。僕は「どうぞ、こんなところだけど」と彼女を招き入れた。
「ここよく通るのよ。あなたよく窓辺に座ってるよね。」
「そんな人この世にいっぱいいるでしょ。」
「どうかな。それにあの鉢植え。」
と彼女は、ハナダイコンの咲いている窓辺のプランターを指差した。
「あんな雑草を育ててる人は珍しくない?」といかにも楽しそうに笑った。↓