2025-03-18 09:33
④ 彼女には不倫関係にある恋人がいると話し始めた。会いたいときに会えないし、でも会えばいつも優しくしてくれるし、自分の年齢では知ることのできない世界も見せてもらえるし、先がないとは十分に解ってはいても今の居心地がいいからそれでいいと思っていた。でも周りの友だちはそれを羨んでいる振りをしつつ本当はすごく軽蔑しているというのが今夜飲んでいてよく判ったというのである。
僕はもちろん「ふーん」としか言いようがないし、彼女も僕の意見など求める気もなさそうなので、「ふーん」の連発をするしかなかった。しかしそれは不思議と居心地の悪くない時間だった。
そのうち彼女がぶら下げてきたボトルは空いてしまったので、買い置いてあったギリシアの松脂入りレツィーナをこの時とばかりに抜栓した。
一口飲んだ彼女は「この香りは知らない人と桜を見ながら飲むのにぴったりね。」と少しこちらの肩にしなだれ掛かってきた。
「知らない人?こっちはもうそっちのプライベートな話を十分に聞かされてるけど。」
と言うと、彼女は座り直して、
「じゃ、君の話をしましょう。」↓