2025-03-20 10:59
『4-4. 再び訪れた夢』
賃貸の契約満了が近づいていた。
安い賃料の代わり、2年間だけの住まいだったから、もうすぐ退去しなければならない。
そのタイミングで、夫は中古マンションの購入を再始動した。
私にとって、それは訳あり物件だった。
災害時が心配なのに、新耐震基準に対応していない。
音に敏感なのに、騒音が気になる立地。
ホラーが苦手なのに、不安を感じる場所だった。
でも、駅近で便利。
眺望も良く、価格も手頃。
フルリノベーションされていて、内装は私の好みだった。
——なのに、ワクワクしなかった。
一度は手が届きそうで届かなかった夢。
それが再び目の前に現れたはずなのに。
夫は盛り上がっていた。
でも、私は思考を止めた。
「どうせまた契約破棄になるかもしれない」
「ここに住む未来なんて、実感がわかない」
内見に行っても、すべてが他人事のようだった。
「これでいい?」と聞かれても、「いいんじゃない?」と答えるだけ。
何も決めたくなかった。
何を決めても、自分のものになる気がしなかった。
引き渡しが終わっても、現実感はなかった。
⬇️続き⬇️